2009年12月1日
未だ低迷するIT市場において、大企業では徐々に回復基調が見えてきているものの、中堅中小企業のIT各分野への投資を見ると、企業はまだ足踏み状態である。その中でも、企業は「売上拡大」を目的として顧客管理、市場分析といった分野に加えて、セキュリティやコンプライアンス対策においても「売上拡大」の一環として比較的堅調に投資している。
また、中堅中小企業の導入率が低いITアウトソーシングの分野では、サービス提供を行う側のベンダは、価格面での努力に加えて、特に中堅企業(従業員規模:100~999人)が持つセキュリティ面やサービスの安定性への懸念を払拭する努力が必要であるようだ。 今回は、IDC JapanのITスペンディングのマーケットアナリストである市村 仁氏に、国内中堅中小企業のIT投資動向、ITサービスの需要・課題、ベンダの戦略について伺った。-現在における企業全体のIT 投資動向について教えてください。
IT投資動向について、今年の2月と7月に行った調査結果を比較してみると、大企業では「IT投資を増やす」という回答が増え、徐々に投資の回復傾向が見られます。それに対して、従業員規模が1,000人以下の中堅中小企業では、大企業とは正反対の結果が得られ、依然とIT投資に対して慎重になっていることが伺えます。
従業員規模別の内訳で見ますと中堅規模(100~999人以下)の企業の投資がさらに低下しています。また、業種別にみれば、2月には比較的堅調であった金融や流通業界での投資の低下が見られます。しかし、IT投資が2011年頃に反発してプラス成長に転じ、かつ、中堅中小企業の成長率が大企業を上回るという予測に変わりはありません。
-中堅中小企業において、導入率の高いITソリューションについて教えてください。
最新のデータでは、サーバやPCといったハードウェアの導入率は小規模企業(従業員規模:1~99人)を除いて既に高い導入率となっていますが、ソフトウェアの分野でも、会計ソフトウェアとセキュリティ関連ソフトウェアの導入率が高まっており、現在の中堅中小企業における会計ソフトウェアの導入率は65%以上、セキュリティソフトウェアが80%以上となっています。
セキュリティ関連を見てみると、従業員規模99人以下の小規模企業でも、70%以上は何らかのセキュリティソフトウェアを導入しています。また、中堅中小企業全体でみたとき、ウィルス対策、ファイアウォール、不正メール対策などは70%以上の企業が導入しており、その導入率は大企業と大差はありません。しかし不正侵入検知やセキュリティ情報の管理(ログ管理)、認証承認システムなどは、導入率はずっと低くなり50%を切っています。基本的なセキュリティに加えて、これらのセキュリティのソリューションを、中堅中小企業に対してどのように訴求していくかが、これからのベンダの課題となるでしょう。
-現在、中堅中小企業が、利用が進んでいない分野は何ですか?
中堅中小企業において、特に利用が進んでいない分野はITアウトソーシングです。 中堅中小企業全体で見ると、サーバなどのホスティング、バックアップ、セキュリティに関するアウトソーシングサービスが比較的多く利用されていますが、まだ20%弱と大企業と比較して利用率には大きな差があります。
調査の中で、アウトソーシングを利用しない理由、あるいは利用をやめた理由について質問していますが、中堅中小企業全体では、「サービス価格が高い」という回答が多くなっていますが、中堅企業(従業員規模:100~999人)では情報漏えいやサービスの安定性を懸念する回答が比較的高くなっています。つまり機密情報を社外で管理することに不安を感じたり、ベンダ側の都合で突然サービスが終了したり変更されたりすることを企業は懸念しており、それが利用に踏み切れない理由として少なからずあるようです。しかしこれらの懸念事項は、ベンダの説明や導入事例、SLA(Service Level Agreement)の締結などによって取り除くことが可能です。
ユーザ企業にとって、ITアウトソーシングを効果的に活用することで、多くの面で得られるメリットもあります。したがって、セキュリティまたはその他利用に関する心配な点があれば、導入コストを踏まえたうえで、サービスベンダに導入事例を聞き、相談することが重要です。
-中堅中小企業の経営課題として、重要視されているものは何ですか?
2009年4月の調査では、中堅中小企業においては、既にコスト削減は十分に行い、あとは現状打開のための売上拡大を課題としている企業が多く、そのソリューションとしてCRM、BI、SFAなどの導入が小規模ながら比較的堅調に推移しているという結果でした。またそれと併せて、セキュリティ、コンプライアンス対策も「売上拡大」策の一環として導入している企業が多くあることがわかりました。
これは、「被害が生じた際に、事業を存続できなくなるため」「取引先から要求されたため」という理由からで、つまりは、セキュリティやコンプライアンスが整備されていないことで営業上の不利となる可能性もあるため、売上拡大への対策の一環としてセキュリティ対策も重視しているということです。このような観点で見ると、セキュリティやコンプライアンスのニーズは、今後も広がっていくのではないかと思われます。
コンプライアンスについては多くの企業において、金融商品取引法による内部統制は本来2008~2009年に整備される予定であったものの、実際には、まだ手作業で対策を行っている状態であり、これから少しずつITを導入して自動化していこうという段階です。
また、国際会計基準への対応や温室効果ガス削減などの課題も、コンプライアンス対策と捉えることができます。現状では上場企業だけですが、必然的に、連携する他の企業にもこの影響が波及していくことが考えられます。そして、会計制度が変わることで、税務関連で影響が出る可能性もあります。その影響範囲がどこまで広がるかは、今のところ、まだはっきりしませんが、これから本格化していくものと思われます。-ITベンダの動向と、中堅中小企業市場に対する戦略について教えてください。
国内の大手ベンダについては、富士通、NECなどが、中堅中小企業向けのソリューションを強化しています。また、日立製作所では、グループを再編して中堅中小企業向けソリューションの強化を検討しています。
外資系ベンダについては、まずハードウェア製品では日本ヒューレットパッカード、日本アイ・ビー・エム、DELLが、昨年から中堅中小企業の市場への営業強化を図っています。それぞれのベンダの戦略としては、日本ヒューレットパッカード、日本アイ・ビー・エムは間接販売を更に強化し、DELLはチャネル販売を強化しようとしています。ソフトウェア製品ではマイクロソフト、SAPジャパンなどが、中堅中小企業市場へかなり注力しています。
このように各大手ベンダが中堅中小企業への新たな戦略を考え、組織の改革も行っている状況ですが、実際にその成果がわかるのはもう少し先のことでしょう。
また、従来から中堅中小企業向けに強みを持ったベンダでは、ユーザ企業が多く抱えるIT運用の人手不足を解決するために、保守サポートサービスなどのITサービスを積極展開しているベンダが増加しています。例えば、大塚商会の「おたすけくん」などのIT機器の管理・運用サービスなどが、比較的成功している事例と言えます。
-最後に、IT投資を考える中堅中小のユーザ企業へ、メッセージをお願いいたします。
企業における今後の問題として、セキュリティやコンプライアンス対策の継続的な強化に加えて、国際会計基準や温室効果ガス削減などへの対応などが避けられない状況となることが考えられます。そのためには、単にIT製品を追加したり、システムをカスタマイズするだけではなく、業務全体の見直し、または取引方法などの見直しも視野に入れなければいけません。
そうした場合に、ITをいかに効率的に利用していくかが重要になります。人手が少ない状況の中では、アウトソーシングなどを有効に利用したり、コスト面で難しいというときは、業務を切り分けて部分的にはじめるというのも1つの方法です。
もちろん闇雲に導入するのではなく、セキュリティや情報漏えいなどの面で不安があれば、サービスを提供しているベンダに積極的に相談して解決することも必要でしょう。導入事例などの説明をよく聞いて、サービスを利用した場合のメリット、デメリットを社内でよく精査し、自社のセキュリティ基準などに照らして判断することが大切です。もし自社にセキュリティ基準がない場合には、経済産業省が策定しているSLAガイドラインなどを参考にするとよいでしょう。










